PSYREN:CALL.137IF 『地球と月』
アゲハがついにミロクに肉迫する。セフィロトの枝がアゲハの額をかすり、その部分のノヴァが解除される。しかし、アゲハは躊躇しない。アゲハの右手がミロクの胸を貫かんとする。ミロクはそれを左に回避…しきれない。ミロクの右腕がかすってしまう。
ミロク「ぐあっ!!!」
ただかすっただけでミロクの右腕のヒジから下が消し飛んだ。
状況を不利と見たミロクは後退する。左手にセフィロトの種を1つ握りながら…
ミロク(グラナ以上の化け物だ!あれを使うしかない…)
アゲハは額のノヴァを修復しながら、ミロクを追いかける。
そして、見た。後退しながらミロクがセフィロトの種を飲み込むのを…
アゲハ「何をするつもりだ?」
ミロク「セフィロト・ビナー“生命の樹・理解”」
ミロクの失った右腕がアゲハに向けられる。そこから枝が勢いよく生え、アゲハに襲いかかる。アゲハはギリギリのところでディスクを展開し直撃を避けるが、大きく吹っ飛ばされた。
ミロクの変化は右腕だけでは終わらない。上半身からいくつもの枝が生え、下半身が光に包まれる。ミロクを核としたセフィロトは地面に根をはり、どんどん巨大化していく。そして、生命の釜から出現しているセフィロトと遜色ない大きさの大樹となった。
雨 宮「…天戯弥勒自身がセフィロト“生命の樹”と融合した?ノヴァとは似て異なるPSIとの融合…これが天戯弥勒の切り札…」
アゲハは起き上がり、大樹となったミロクを見上げる。
PSIとの融合を果たし、自分と同じ化け物になったミロク…
恐怖はない。同情もない。あるのは憎しみと怒りだけ…
ミロク「俺は地球!!世界そのものだ!!地球の周りを飛ぶことしか能のないハエ“月”が…宙は俺を中心に廻っているということを思い知るがいい!!」
アゲハ「どれだけ思い上がれば気が済む?例えそうだとしても、おまえのような地球なんていらない。粉々に砕けろ、天戯弥勒」
アゲハはランスをひとつ飛ばす。ランスはビナーの全高の中間点あたりに向かって突き刺さり、すぐに砕け散った。
アゲハ(あそこに弥勒の本体がいる!)
アゲハはランスが突き刺さった場所めがけて突っ込む。
しかし、ミロクもその突進を黙って待ち構えるわけがない。
ビナーの枝に何十個もの種が実る。その種がひとつ、またひとつと地面へと落ちていき、地面につくとすぐに樹へと変化しアゲハへと襲いかかる。
アゲハ「邪魔だ!いまさらこんなものが俺に通用すると思っているのか!?」
アゲハはディスク、ボルテクスを使いこなし、セフィロトの枝をことごとく消し去る。
ミロク(思ってないさ、これはただの時間稼ぎ…俺は今、大地からありったけのエネルギーを吸収している。完全なるセフィラ・ゲート“生命の門”をお前に喰らわせてやる…)
アゲハはセフィロトの枝を消しながら徐々に、徐々にミロク本体のいる場所へ近づく。
あと12…11…10m、そこでミロクがアゲハに話しかける。
ミロク「少年、準備は終わった…」
アゲハ(準備?何のことだ?)
ミロク「セフィラゲート“生命の門”の準備だ。このビナー“理解”形態で放つセフィラゲート“生命の門”はPSI能力が弱い者ならば見ただけで生命エネルギーを蒸発させ死に至る。肉体も魂も…全てを浄化する究極の光…今からこれを放つ…」
アゲハ(…何故、わざわざ宣言する?絶対の自信からか?)
ミロク「あの女に向かってだ」
それはアゲハにとって最も許しがたい言葉だった。
アゲハ「なっ、雨宮にだと!?お前…何のつもりだ!!!」
ミロク「あの女もW.I.S.Eの敵に変わりない。目障りだから先に消してやろうと思っただけだ。おまえがあの女を見捨てれば俺を殺せるかも知れんぞ、見捨てることができればな」
ミロクはアゲハの想像通り、二人をまとめて葬る自信があった。ミロクはこの後のことを考えてPSIの消耗を抑えたい。そもそもこの戦闘自体がイレギュラーで、PSIを激しく消耗してしまっている。アゲハを倒した後に雨宮と戦うことは避けねばならなかった。
ミロク(ミスラ…あいつがどう動くか分からないからな)
アゲハ「…いいだろう。その挑発、のってやる」
アゲハは急いで方向転換、雨宮のいる場所に向かって飛んでいく。
雨 宮「夜科?なんでこっちに向かって…」
ビナーの前に魔法陣が浮かび上がる。そして雨宮は気付いた。魔法陣が明らかに自分に向けられているのを…
雨 宮「えっ?」
アゲハ「雨宮!!下がれ!!」
アゲハが雨宮の前に立つ。そして両手にディスクを展開。最悪の敵意に備える。
ミロク「セフィラゲート“生命の門”…開門!!!」
魔法陣から巨大なレーザーが噴出する。最初のセフィラゲートより光度が強い。さらに生命エネルギーの蒸発による強烈な脱力感…。アゲハと雨宮は最初のセフィラゲートとの違いを文字通り全身全霊で味わう。
雨 宮(トランス作用!?何なの、この技は!?)
ミロク「旧き世界の亡霊たちよ!!姉さんの意思とともに消え去れェェェ!!!」
ついにレーザーがアゲハのディスクと激突する。アゲハは吹き飛びそうになるのを必死で堪える。
アゲハ(さっき消したものより数段重い!!それにこの脱力感…だが、負けるわけにはいかない!!!)
自分の後ろに雨宮がいる。自分が負けたら、雨宮はどうなる?
雨宮だけじゃない。カイル、ヴァン、シャオ、マリー、フレデリカ、親父、姉貴…また虐げられるのか?今度こそ殺されるのか?ふざけるな、絶対にそんなことはさせない!!
そして07号…あいつの願いはなんとなく分かっている。それを踏みにじった弥勒を俺は許さない!
雨 宮「…夜科!!私たちは全員で現代に帰らなきゃいけない!!みんなが…夜科の帰りを待ってる!!だから負けないで!!絶対に…死なないでェェェ!!!」
雨宮が脱力感に耐えながら叫ぶ。誰も犠牲にならずに現代へ帰る。それが雨宮のPSYRENゲーム当初からの願い…
アゲハ「…負けられないっ…理由が増えたな…うおおおオオああアアアァァァァ!!!」
アゲハが吼える。自分のPSI全てを出しつくさんとする。
そして、敵意と意地のぶつかり合いは終わる…
セフィラゲートからのレーザーが消えても、アゲハの姿はそこにあった。
しかし、アゲハもただではすまない。黒い表皮に無数のひびが入り、ボロボロと崩れさる…ノヴァが解除された。
雨 宮「夜科!!」
雨宮がアゲハに近づこうとする。しかし、脱力感のせいでうまく歩けない。
アゲハ「…来るな、雨宮!!」
雨宮は立ち止まり、そして気付く。
雨 宮(…消えない?)
アゲハが切れ切れの声で言う。
アゲハ「…俺は…このディスク…に…自動消滅を…プログラムしていない」
2枚のディスクは消えない。
アゲハの憎しみと怒りは消えない。
ミロク「まさか…ビナー“理解”形態のセフィラゲート“生命の門”まで防ぎきるとは…だが、限界のようだな」
思念体が解除してしまっている。最後の気力でシールドを維持しているようだが、それも時間の問題だろう。
ミロク「…ビナー“理解”解除」
その言葉と同時にビナーの厚い膜を突き破り、ミロクは飛び出した。そのままアゲハめがけて突っ込む。ビナーは蒸発するように消えていく。
ミロク「終わりだ!!少年!!」
アゲハの肉体と精神はボロボロだった。しかし、殺意に満ちた瞳でミロクをにらむ。その姿はまさに飢えた肉食獣…。
そして、ディスクがおぞましく蠢く。
さらにディスクから太い枝のようなものが飛び出す。いや、あれは枝というよりも魔獣の爪…警戒したミロクは空中で動きを止める。
ミロク(…何だ、何が起きている?あのシールド…さきほどから使っているものとは違うのか!?)
魔獣の爪はゆっくりとミロクのほうへ向き…すさまじい速さでミロクへと襲いかかる!!!
ミロク「っ!!?」
とっさにミロクはセフィロトで防御膜を形成する。しかし魔獣の爪は紙を破くようにあっさりとそれを突き破る。2本がミロクの左の太腿と右の腹部をえぐりとり、1本が胸部を深々と貫いた。
ミロク「がっ!!?…っ!!!」
雨 宮(…あれだけのエネルギーを吸収したメルゼズ“暴王”が爆ぜたんだ。防御なんてできるわけがない…)
ディスクとそこから出現した魔獣の爪が砕け落ちる。それと同時にアゲハが膝から崩れ落ちる。ミロクは空中で停止したまま動かない。
雨 宮「…天戯弥勒の体から…急速に力が失われていく…」
ミロクの体はイルミナでもなく、他者の生命エネルギーを吸い続け、形を成していた。
今…それが奪われ崩れていく…
ミロク「ク…クク…まさか…な…この俺が…今日、この日に命尽きることになろうとは…いや…これも運命…か」
そして、やっと重力を思い出したかのようにゆっくり…ゆっくりと生命の釜へと落ちていく。
ミロク「少年…俺が、ここで力尽きようと…この世界は…俺を中心に廻るのだ…もう…お前にコレを止めることは出来ない」
アゲハ「…!?」
生命の釜のセフィロトの上部に魔法陣が浮かぶ。そして、生命エネルギーがセフィロトから大地へと拡がっていく。大地が大きく揺れ始める。
アゲハ「何…だ…!!」
雨 宮「マズい…どんどん溢れていく…!!」
アゲハが雨宮に支えられて立ち上がる。
それらを物陰から隠れて見ていた人物がいた。
ミロク「新しい生命が誕生する」
物陰から隠れていた人物が姿を現す。その人物はアゲハたちを無視して釜と建物の境目まで歩き、落ちていくミロクを眺める。
アゲハ「お前は…!?」
ミスラ「よく働いてくれたね、天戯弥勒」
CALL.137IF 『地球と月』 END
原作ではミロクは太陽となっていますが、個人的にグラナが太陽かなぁと思ったのと、地球と月でも対比になるかなぁと思ったので、ミロクは地球になっています。