PSYREN:CALL.143IF 『道を』
ミロクがミスラのレーザーをセフィロトで防御する。アゲハはセフィロトの防御を利用しながら、ミスラに突っ込む。
アゲハ「これで終わりだ」
アゲハはメルゼズ・ドアをいくつも出現させ、そのひとつをミスラに叩き込む。ミスラの胸部に風穴が開いた。
ミスラ「がはっ!!」
アゲハはさらにメルゼズをミスラに叩きつけようとする。
しかし、いきなりメルゼズの制御ができなくなる。メルゼズの半分はミスラの体を削りとるが、残りの半分はセフィロトへと向かい、セフィロトを消し去ってしまう。
アゲハ(なんだと!?…うぁっ!!?…!!)
ミロク「っ!?何のつもりだ、夜科アゲハ!!…何!?」
メルゼズたちが動きを止め、砕け落ちる。
アゲハの黒い表皮にヒビが入り、ボロボロと崩れ去る。そしてミスラの目の前で膝をついてしまう。
ミロク「…限界だったか、力がコントロールできないほど…」
祭・影「夜科!?」
ミスラの傷が自然に塞がっていく。ミスラがアゲハを見下ろす。
ミスラ(…PSIが尽きた?…なんてマヌケな奴なんだ!!)
ミスラの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。
祭と影虎がアゲハを助けるために走る。
ミスラが左腕を揚げる。そしてその腕が長さ、太さともに倍ほどに肥大化する。
祭 (くそっ、遠い!…間に合わん!!)
ミスラ「死ねぇぇぇ!!!」
ミスラが左腕を振り下ろす。
???「弱者ニトッテ脅威トハ視ユルモノ“事象”、ソノ掌デ祓ウモノ“事象”!!」
ミスラとアゲハの間にだれかが割って入った。そのだれかはミスラの左腕を振り払うと、見えない力がミスラを吹っ飛ばす。
カブト「危ねぇ!!ギリギリ間に合った!!」
ヨ ヨ「アノ化ケ物ノ攻撃ハ祓エナイ可能性ガアッタンダガ…マァ無事デナニヨリダ」
カブトだ。約束の涙を奪われて急いでここに戻ってきたのだ。
ミスラは吹っ飛ばされながらも空中で体勢を整え、カブトをにらむ。
ミスラ(なんだ!?アイツはボクに何をしたんだ!?)
それを考える時間は与えられない。煙がミスラの周りを包み込む。
ミスラ(煙?いや、これはPSI粒子か!?)
煙の正体に気付いたのと同時にミスラの首めがけて2本の鎌が襲いかかる。
ミスラは背中の蜘蛛の足のようなものを2つ操って、それらをはじきとばす。
攻撃は止まらない。ミスラの頭上からアビスが重いかかと落としを仕掛ける。ミスラは肥大化したままの左手で防御し、アビスをそのまま振り払う。アビスは華麗に着地し、さらなる攻撃を加えようとミスラに迫る。
雨 宮「夜科!!」
雨宮がアゲハに駆け寄る。そしてアゲハの状態を確認する。
雨 宮(この胸の傷…かなり深い。これがノヴァの負担になってしまったの…?だめだ、夜科はもう戦えない…)
アビス「よくもアタシのアゲハを!!!」
雨宮とアビスは2人で1つ。雨宮が知ったアゲハの状態は一瞬でアビスに伝わる。胸の傷はミロクがつけたものだったが、それを知らないアビスはミスラに怒りを向ける。攻撃が苛烈さを増す。2本の鎌が変幻自在にミスラを襲い、アビス自身がヒットアンドアウェーで強烈な蹴りを与えていく。ミスラは防戦一方になる。
ミスラ「なんなんだ、お前たちは?急にわいて出てきて計画の邪魔をしやがって…うっとうしいんだよ!!」
ミスラの右側から1本の鎌が迫る。ミスラはそれをつかんだ。つかんですぐに鎌がパズルのように分解されてしまう。
アビス「っ!?…それがどうした!!」
アビスは強がるが、しだいに攻守が逆転していく。ミスラの蜘蛛の足が雨のようにアビスに打ち込まれる。アビスはそれらを避け、あるいは残った鎌で防御する。肥大化したままの左手が横なぎに振るわれる。アビスは鎌で防御するが、勢いを殺しきれない。アゲハたちのいる方へ吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされたアビスをカブトが受け止める。
カブト「大丈夫かい!?えーと…ブラックバニーちゃん!!」
アビス「くっ…気安く触るんじゃないわよ!!アタシに触れていいのはアゲハだけよ!!」
カブト「エエエェェェ!?ヒデェ…なんでこっちのバニーちゃんはアゲハLOVEがこんなにあからさまなんだよ…」
ミスラの前に球体が浮かぶ。レーザーを撃つ前兆だ。
アビス「まずい!桜子!!アゲハを抱えて逃げなさい!!」
カブト「…いや、大丈夫。あれはこっちに来ない」
カブトにはこれから起きる脅威が白い光となって見える。それが見えない。…いや、白い光がミスラへと向かっていくのが見える。
ミスラ「4人まとめてあの世に送ってやる!!」
影 虎「させるか…よっ!!!」
ミスラの左のわき腹に影虎の渾身の右ストレートが突き刺さる。完全な不意打ちを喰らったミスラは吹っ飛ばされて木に激突する。
祭 「ハアァァァ!!」
追い討ちで祭がミスラにバースト弾をいくつも叩き込む。バースト弾が容赦なくミスラの体を破壊する。
祭 「…ノヴァカップルは休憩をご所望だ。その間はわたしたちが相手になってやる。お前のために最高のレクイエム“鎮魂歌”を奏でてやろう」
影 虎「姐さんの曲は世界の宝だ。死ぬ前に聴かせてもらえるなんて…おまえ、幸せ者だぜ?」
あれだけの攻撃を受けてもミスラは動き出す。削れたようになっていた表皮が再生していき、元に戻ってしまう。
ミスラ「とことんイラつかせてくれる連中だ…レクイエム“鎮魂歌”だと?この星に聴かせてやれよ!!お前たち全員、地球ごと消え去る運命だということがまだ分からないのか!!?」
祭 (どれだけ攻撃してもすぐに再生してしまう…やはりコイツを倒すためにはメルゼズ“暴王”の圧倒的な力が必要なのか、夜科!?)
ミロク「…雨宮桜子だったか?少し、夜科アゲハから離れていろ」
ミロクが雨宮に話しかける。グラナ、ジュナスも近くにいたが、なぜかグラナは憔悴していて、ジュナスに支えられている。
雨 宮「…夜科に何をする気?」
ミロク「悪いようにはしないさ」
雨宮はノヴァのPSI粒子の影響でミロクの心が読める。…嘘はついていない。雨宮はアゲハから離れる。
ジュナ「本当にやるのか、弥勒?今後、この男が俺たちにとってどれほどの脅威になるのか分かっているのか?」
ミ・グ「くどいぞ、ジュナス」
ミロク、グラナがジュナスに冷たい視線を送る。
グラナ「脅威になるんだったら、そのときに対処したほうが面白いだろうが」
ミロク「そういうことだ。それにお前は拒否したが、すでにグラナから生命エネルギーを半分ほど頂いてるんだ。これを無駄にするつもりはない」
ミロクが右の掌をアゲハの方に向ける。そこから樹の枝が生え、枝の先がアゲハの胸の傷に触れる。
ミロク「セフィロト・ケセド“生命の樹・慈悲”」
ケセドはティファレトの真逆の能力、ミロク自身の生命エネルギーを他者に分け与える能力だ。徐々にアゲハの胸の傷が塞がっていく。
ミロク「…これは?…ちっ!」
ミロクが何かに戸惑う。やがて傷が完全に塞がり、ミロクの掌から枝が消える。
ミロク「胸の傷は塞がった。命は助かるだろう。…しかし、なぜか脳のダメージが取り除けない。お前たちのノヴァという力…やはり危険な代物のようだな…」
雨 宮「…いいえ、ありがとう。それだけで十分よ」
ミロク「礼は言うな。さっきの傷はもともと俺が与えた傷だ」
雨 宮「っ!!?」
アビスが即座に動いた。ミロクに向かって鎌が飛ぶ。鎌がミロクの目の前まで迫り…顔の左側を通り過ぎ、木に突き刺さった。
ジュナ「貴様!!!」
グラナ「落ち着け、ジュナス。当たってねぇよ」
これを見ていたカブトの顔からは血の気が失せていた。
アビス「………」
ミロク「………」
雨 宮「…今の話は聞かなかったことにしておくわ。あの子もわたしの一部…なんとか思いとどまってくれたみたいね」
心を半分地べたに捨てて、今やらなきゃいけない事に集中する。わたしがいつもやってきたことだ…そう、今は天戯弥勒と争っているときではない。
ミスラを倒す…殺す、滅ぼす!運命を変える!!それがわたしたちの…夜科の願いだ。
雨宮はアゲハを優しく抱きしめた。そして、耳元でささやく。
雨 宮「大丈夫だよ、夜科…」
アゲハから離れ、アビスの元まで歩いていく。二人は祭と影虎が戦っているミスラをにらむ。
雨・ア「わたし(アタシ)たちが、あなたを守るから!!」
アゲハ(…何をやっているんだ…俺は…)
…自分を包み込んでくれる暖かさを感じた。
…自分を安心させてくれる優しい声を聞いた。
…自分を守るという決意の言葉が聞こえた。
アゲハ(…肝心なところでブッ倒れて…みんなに代わりに戦わせて…俺がどうなっても…雨宮だけは守るんじゃなかったのかよ!?)
雨 宮「夜科!?」
ノヴァの影響で雨宮はアゲハの心の声が聞こえた。雨宮はアゲハのほうを振り向く。アゲハがゆっくりと立ち上がっていた。
アゲハ「…礼は言わないぞ、天戯弥勒」
ミロク「姉さんの借りを返しただけだ。ところで…気付いていると思うが、それは俺の好きなタイミングで使わせてもらうぞ」
ミロクはアゲハの傷のあった場所を指し示す。
アゲハ「勝手にしろ」
雨宮とカブトには二人の会話の後半が理解できなかった。
そして、アゲハは戦いの場へと歩き出す。
アゲハ「すまない…雨宮、カブト。少し眠っちまった。俺はもう大丈夫だから…あとは任せてくれ」
雨 宮「…なっ?」
雨宮はアゲハの前に両手を広げて立ちはだかる。
雨 宮「何言ってるの!?そんなの駄目に決まってるじゃない!!夜科の脳のダメージはキュアじゃ取り除けなかったんだよ!?これ以上、力を使ったら本当に死んじゃう!!」
カブト「雨宮ちゃんの言うとおりだ…お前がいなくても何とかする!いいから休んでろ!!」
アゲハ「ここはPSYREN世界じゃない。この世界で汚れるのは俺一人で十分だ。それに…」
アゲハの瞳にはPSYREN世界のミロクと戦ったとき以上の殺意が宿っていた。
アゲハ「あの世界の皆を殺したミスラを絶対に許さない…!俺が仇をとりたいんだ…どいてくれ、雨宮!」
雨 宮「っ!!」
分かっていた…分かっていた!!あの世界は誰にも救えなかった…救えるはずがなかった…。それでも夜科が苦しまなかったはずがない…自分を責めなかったはずがない…
アビス「…桜子、下がりましょう。アゲハは止められない…」
雨 宮「でも!!」
アビス「アタシたちのアゲハがやるって言ってるのよ!!信じてあげなくて何が愛してるよ!?」
アビスが瞳に涙をためながら叫ぶ。
雨宮がうつむく。深く…深く悩んで…アゲハに道を譲った。
アゲハ「ありがとう、アビス…すまない、雨宮」
祭が影虎にテレパスを送る。
祭 (影虎、夜科が復活した!メルゼズ“暴王”の巻き添えを喰わないように退くぞ!)
影 虎(…やはり、任せるしかないんですか?アイツ…死んじまうかもしれないですよ?)
夜科はあんなにボロボロなのに…まだ戦うつもりなのだ。ミスラを倒せるのは夜科だけというのは分かる。それでも夜科に任せるしかない自分たちが情けない…
祭 (…歯がゆい気持ちは分かる。わたしも同じだ…。だが、夜科自身が決着をつけたがってる。止められんよ…。あとは信じるだけだ。他ならぬ桜子が信じたんだ…わたしたちが信じなくてどうする?)
影 虎(…漢には退けないときがある…夜科にとって今がそうなんですね…。分かりました、俺も信じます。アイツがそう簡単に死ぬはずがない!)
ミスラを挟み込むかたちで攻撃をしていた二人はそれぞれ後退する。
ミスラ「どうした、いまさら逃げるのか!?逃げても死ぬ運命に変わりはないぞ!!」
祭 「言っただろう?私たちはアイツらの休憩の間だけ相手になると…任せたぞ、夜科」
ミスラは後ろを向く。アゲハがゆっくりと歩いていた。
ミスラ「なんだ、またお前か…お前のような死に損ないに何ができる?」
アゲハ「…」
ミスラ「お前だけじゃない…誰もボクを止めることなんて出来るものか。クァト・ネヴァスがこの星すべてを喰らいつくす…ボクはその運命を導くかがり火だ。ここまでの戦いで分かっただろう?ボクは不死身なんだよ…お前たちが何をしようとかがり火は消えない…滅びの運命は変えられない!!」
アゲハ「確かに俺は…あの世界の運命を変えることができなかった。…それでも運命は変えられる。俺はそれを…自分の身をもって知っているんだ…」
アゲハはここに辿り着くまでのことを思い出す。
誰が…自分の命を救ってくれた?
アゲハ「ドルキに殺される俺の運命を…カイルたちが変えてくれた…」
誰が…限界を超える力を教えてくれた?
アゲハ「ノヴァが無かったら…あの世界の弥勒に勝てなかっただろう。その運命を…親父が変えてくれた…」
ミスラ(…ドルキ?…あの世界の弥勒?さっきから何を言っているんだ、コイツ?)
誰の願いが…自分をここまで導いてくれた?
アゲハ「10年間、お前に操られ続ける弟の運命を…07号が変えてみせた!」
ミスラの顔が驚愕に染まる。
ミスラ「07号…?弥勒が殺し損ねた女…まさか、この状況…全部アイツが!?」
アゲハ「そして俺が…!!ここでお前を殺して、あの最悪の運命を変える!!この世界だけは…みんなが幸せな道を歩いていかなきゃいけないんだ!!!」
アゲハがノヴァを発動する。全身全霊が暴王に染まり…全身全霊が悲鳴を上げる。
…関係ない!俺がどうなっても…みんなを守るんだ!!
アゲハ「消えろ!!ミスラ、クァト・ネヴァス!!お前たちの導く運命なんて、誰も望んでなんかいない!!!」
アゲハが左手を前に突き出し、握り締める。左手を開くといくつもの小さなメルゼズが生み出される。
アゲハ「ランス“流星”!!」
ランスがすさまじい速さでミスラに向かっていく。
ミスラ「…ふざけるなよ…どいつもこいつも…生贄の羊の分際で…!」
突然ミスラの体からいくつもの球体が飛び出す。
祭 (イルミナ!?いや、この世界では存在できないはず…強化版と言ったところか?)
イルミナがミスラを守るようにランスと激突する。ランスとイルミナが消滅する。
ミスラ「ボクはこの星の王!!クァト・ネヴァスは神だ!!おまえたちが歯向かっていい相手じゃないんだよ!!家畜どもがぁぁぁァァァ!!!」
ミスラの体からどんどんイルミナが生み出される。それらが飛んでいき、アゲハの周りを囲んでいく。
ミスラ「クァト・ネヴァスの分身たちよ!!そいつの肉体と精神を喰らい尽くせ!!」
四方八方からイルミナがアゲハに襲い掛かる。アゲハはボルテクスでイルミナを防ぐ。
ミスラ(たいした防御だ…だけど…)
ミスラはイルミナを生み出し続ける。さらにイルミナとは別の球体がミスラの前に浮かぶ。ミスラはイルミナを生み出しながらレーザーを放つことができた。
ミスラ「分身を防ぎながらコレも防げるのかぁ?できるものならやってみろ!!」
ミスラから巨大なレーザーが発射される。さすがにボルテクスで防ぎきれる攻撃ではない。
アゲハ「…」
アゲハはボルテクスを解除し、両手にディスクを生み出す。ボルテクスが消え、いくつものイルミナがアゲハに迫る…
雨 宮(ディスクだけでイルミナとレーザーを防ぎきれるの?夜科!?)
ミロク「…セフィラゲート“生命の門”…開門」
雨 宮「…えっ?」
アゲハの胸から何かが出てくる。それを確認したアゲハは自分にせまるイルミナをディスクで粉砕していく。
アゲハの胸から出た何かは魔法陣へと変化し、巨大なレーザーを発射した。
ミスラの放ったレーザーとアゲハから出現したレーザーが激突する。
2つのレーザーの威力は互角だった。レーザーは消滅しあい、すさまじい衝撃波が生み出された。ミスラは驚愕と衝撃波のせいで動きが止まってしまう。
ミスラ「セフィラゲート“生命の門”!?なんでアイツが弥勒の技を!?」
ミスラの動揺をアゲハは見逃さない。一瞬でミスラに肉迫し、ディスクで切りかかる。ミスラは右に回避するが、反応が遅れている。左肩から先と左側の蜘蛛の足2本を切り飛ばされた。
ミスラ「ぐっ!!…なめるなぁ!!!」
切り飛ばしたミスラの一部が地面に落ちる。そして、すぐにいくつものイルミナへと変化し、アゲハへと襲い掛かる。
アゲハ「っ!?…ちっ!」
虚をつかれながらもアゲハはこれをディスクで防御する。
ミスラはすばやくアゲハの背後をとる。そして、残った蜘蛛の足全てでアゲハを貫かんとする。
ミスラ「滅びろ、人間!!おまえたちに未来なんて無いんだよ!!」
アゲハの防御が間に合うタイミングではない…
しかし、アゲハの背中からまた何かが出てきた。
それは一瞬にして1本の光る樹へと変化し、ミスラを貫く!!!
ミスラ「がはっ!!?」
セフィロトはミスラを貫いたまま成長し、アゲハとミスラの距離が離される。
ミスラ「また…弥勒の技?…なんで」
アゲハの胸からまたセフィロトの種が出される。ミスラはそれが魔法陣に変化するのをなす術もなく、呆然と見つめる。
ミスラ「…弥勒!!おまえ、あの男にいったい何をしたんだ!!?」
セフィラゲートが光を放つ。光は何も応えずミスラを飲み込んだ。
ミスラ「ぎゃあああぁぁああアあアアアああぁぁァぁぁ!!!」
カブト「なんで…アゲハが天戯弥勒の技を使えるんだ?」
ミスラと同じようにカブト、祭、影虎も呆然としていた。グラナ、ジュナスは苦笑している。雨宮は先ほどのアゲハとミロクの会話を思い出す。
雨 宮「…まさか」
ミロク「先ほどの治療のときにセフィロト“生命の樹”の種を植え込んでおいた。姉さんの力を取り込んで、外に出せるような体だ。俺の力で同じことをするのは造作もない」
雨・ア「あなた(お前)!!悪いようにはしないと言っておきながら!!!」
ミロク「騙したつもりはないが?害はないし、もう奴の体に種は残っていない」
ミスラ「ミ…ロク…弥勒ゥゥゥ!!!ボクがいなければ…グリゴリでモルモットとして死ぬしかなかったくせに、その恩を忘れやがって!!」
雨 宮「まだ生きてるの!?」
グラナ「ゴキブリ以上にしぶてぇヤツだな」
ミスラは生きていたが、再生のスピードが先ほどと比べてずいぶん遅い。イルミナを生み出すことはミスラにとって諸刃の剣だった。
ミスラ「いまさら人間の味方をして何になる!?おまえのような化け物がこの世界に受け入れてもらえるわけがない!!分かりきっているだろう!!?」
ミロク「受け入れてもらうつもりなど毛頭ない。新たなるサイキッカーの世界を創る…お前と道を違えても、この道だけは違えはしない」
ミロクはミスラを見る。その顔には若干の憂いが浮かんでいた。
ミロク「ミスラ…どんな目的があろうと、お前が俺にグリゴリを抜け出すきっかけを与えてくれたのは事実だ…そのことには感謝している。だが…姉さんが命がけで伝えてくれたんだ。…狼になるな、黒い羊のまま生きろ…とな。俺はこれ以上、姉さんの思いを踏みにじることはできない」
ミスラ「そのとおりだよ…お前は黒い羊のまま…狼に喰われていればいいんだ…!!」
アゲハ「喰われるのはお前だ…PSYREN世界の皆の無念を思い知れ…!!」
アゲハが次々とメルゼズを生み出していく。一つ一つに憎しみと怒りをこめながら…
ミスラ「…やめろ!!地球は…クァト・ネヴァスの一部となる運命なんだ!!神と同化し…悠久なる時を…宇宙を旅して生きる…。この喜びが…誉れが…!何故理解できない!!?」
アゲハ「…それが理解できるのはクァト・ネヴァスの家畜となったお前だけだ。俺はお前を理解する気はない」
アゲハの姿が消え…一瞬でミスラの後ろに現れる。その動きに追従したいくつものメルゼズがミスラの体を喰らい尽くす。
ミスラ「ぎゃアあァぁぁァああ!!!」
攻撃は終わらない。アゲハは右腕を高く掲げ、メルゼズを生み出す。それは今まで生み出したメルゼズの中で最も巨大だった。それを持ったままアゲハは跳ぶ。
ミスラ「…や…め」
アゲハ「今度こそ…終わりだ!!!」
アゲハがメルゼズを振り下ろす。
黒き月はミスラを飲み込み…完全に消滅させた。
テレカによって少しずつ変えられし運命は大きな流れとなり…たった今、世界の運命は変えられたのだ。
CALL.143IF 『道を』 END
PSYREN:CALL.137IF 『地球と月』
アゲハがついにミロクに肉迫する。セフィロトの枝がアゲハの額をかすり、その部分のノヴァが解除される。しかし、アゲハは躊躇しない。アゲハの右手がミロクの胸を貫かんとする。ミロクはそれを左に回避…しきれない。ミロクの右腕がかすってしまう。
ミロク「ぐあっ!!!」
ただかすっただけでミロクの右腕のヒジから下が消し飛んだ。
状況を不利と見たミロクは後退する。左手にセフィロトの種を1つ握りながら…
ミロク(グラナ以上の化け物だ!あれを使うしかない…)
アゲハは額のノヴァを修復しながら、ミロクを追いかける。
そして、見た。後退しながらミロクがセフィロトの種を飲み込むのを…
アゲハ「何をするつもりだ?」
ミロク「セフィロト・ビナー“生命の樹・理解”」
ミロクの失った右腕がアゲハに向けられる。そこから枝が勢いよく生え、アゲハに襲いかかる。アゲハはギリギリのところでディスクを展開し直撃を避けるが、大きく吹っ飛ばされた。
ミロクの変化は右腕だけでは終わらない。上半身からいくつもの枝が生え、下半身が光に包まれる。ミロクを核としたセフィロトは地面に根をはり、どんどん巨大化していく。そして、生命の釜から出現しているセフィロトと遜色ない大きさの大樹となった。
雨 宮「…天戯弥勒自身がセフィロト“生命の樹”と融合した?ノヴァとは似て異なるPSIとの融合…これが天戯弥勒の切り札…」
アゲハは起き上がり、大樹となったミロクを見上げる。
PSIとの融合を果たし、自分と同じ化け物になったミロク…
恐怖はない。同情もない。あるのは憎しみと怒りだけ…
ミロク「俺は地球!!世界そのものだ!!地球の周りを飛ぶことしか能のないハエ“月”が…宙は俺を中心に廻っているということを思い知るがいい!!」
アゲハ「どれだけ思い上がれば気が済む?例えそうだとしても、おまえのような地球なんていらない。粉々に砕けろ、天戯弥勒」
アゲハはランスをひとつ飛ばす。ランスはビナーの全高の中間点あたりに向かって突き刺さり、すぐに砕け散った。
アゲハ(あそこに弥勒の本体がいる!)
アゲハはランスが突き刺さった場所めがけて突っ込む。
しかし、ミロクもその突進を黙って待ち構えるわけがない。
ビナーの枝に何十個もの種が実る。その種がひとつ、またひとつと地面へと落ちていき、地面につくとすぐに樹へと変化しアゲハへと襲いかかる。
アゲハ「邪魔だ!いまさらこんなものが俺に通用すると思っているのか!?」
アゲハはディスク、ボルテクスを使いこなし、セフィロトの枝をことごとく消し去る。
ミロク(思ってないさ、これはただの時間稼ぎ…俺は今、大地からありったけのエネルギーを吸収している。完全なるセフィラ・ゲート“生命の門”をお前に喰らわせてやる…)
アゲハはセフィロトの枝を消しながら徐々に、徐々にミロク本体のいる場所へ近づく。
あと12…11…10m、そこでミロクがアゲハに話しかける。
ミロク「少年、準備は終わった…」
アゲハ(準備?何のことだ?)
ミロク「セフィラゲート“生命の門”の準備だ。このビナー“理解”形態で放つセフィラゲート“生命の門”はPSI能力が弱い者ならば見ただけで生命エネルギーを蒸発させ死に至る。肉体も魂も…全てを浄化する究極の光…今からこれを放つ…」
アゲハ(…何故、わざわざ宣言する?絶対の自信からか?)
ミロク「あの女に向かってだ」
それはアゲハにとって最も許しがたい言葉だった。
アゲハ「なっ、雨宮にだと!?お前…何のつもりだ!!!」
ミロク「あの女もW.I.S.Eの敵に変わりない。目障りだから先に消してやろうと思っただけだ。おまえがあの女を見捨てれば俺を殺せるかも知れんぞ、見捨てることができればな」
ミロクはアゲハの想像通り、二人をまとめて葬る自信があった。ミロクはこの後のことを考えてPSIの消耗を抑えたい。そもそもこの戦闘自体がイレギュラーで、PSIを激しく消耗してしまっている。アゲハを倒した後に雨宮と戦うことは避けねばならなかった。
ミロク(ミスラ…あいつがどう動くか分からないからな)
アゲハ「…いいだろう。その挑発、のってやる」
アゲハは急いで方向転換、雨宮のいる場所に向かって飛んでいく。
雨 宮「夜科?なんでこっちに向かって…」
ビナーの前に魔法陣が浮かび上がる。そして雨宮は気付いた。魔法陣が明らかに自分に向けられているのを…
雨 宮「えっ?」
アゲハ「雨宮!!下がれ!!」
アゲハが雨宮の前に立つ。そして両手にディスクを展開。最悪の敵意に備える。
ミロク「セフィラゲート“生命の門”…開門!!!」
魔法陣から巨大なレーザーが噴出する。最初のセフィラゲートより光度が強い。さらに生命エネルギーの蒸発による強烈な脱力感…。アゲハと雨宮は最初のセフィラゲートとの違いを文字通り全身全霊で味わう。
雨 宮(トランス作用!?何なの、この技は!?)
ミロク「旧き世界の亡霊たちよ!!姉さんの意思とともに消え去れェェェ!!!」
ついにレーザーがアゲハのディスクと激突する。アゲハは吹き飛びそうになるのを必死で堪える。
アゲハ(さっき消したものより数段重い!!それにこの脱力感…だが、負けるわけにはいかない!!!)
自分の後ろに雨宮がいる。自分が負けたら、雨宮はどうなる?
雨宮だけじゃない。カイル、ヴァン、シャオ、マリー、フレデリカ、親父、姉貴…また虐げられるのか?今度こそ殺されるのか?ふざけるな、絶対にそんなことはさせない!!
そして07号…あいつの願いはなんとなく分かっている。それを踏みにじった弥勒を俺は許さない!
雨 宮「…夜科!!私たちは全員で現代に帰らなきゃいけない!!みんなが…夜科の帰りを待ってる!!だから負けないで!!絶対に…死なないでェェェ!!!」
雨宮が脱力感に耐えながら叫ぶ。誰も犠牲にならずに現代へ帰る。それが雨宮のPSYRENゲーム当初からの願い…
アゲハ「…負けられないっ…理由が増えたな…うおおおオオああアアアァァァァ!!!」
アゲハが吼える。自分のPSI全てを出しつくさんとする。
そして、敵意と意地のぶつかり合いは終わる…
セフィラゲートからのレーザーが消えても、アゲハの姿はそこにあった。
しかし、アゲハもただではすまない。黒い表皮に無数のひびが入り、ボロボロと崩れさる…ノヴァが解除された。
雨 宮「夜科!!」
雨宮がアゲハに近づこうとする。しかし、脱力感のせいでうまく歩けない。
アゲハ「…来るな、雨宮!!」
雨宮は立ち止まり、そして気付く。
雨 宮(…消えない?)
アゲハが切れ切れの声で言う。
アゲハ「…俺は…このディスク…に…自動消滅を…プログラムしていない」
2枚のディスクは消えない。
アゲハの憎しみと怒りは消えない。
ミロク「まさか…ビナー“理解”形態のセフィラゲート“生命の門”まで防ぎきるとは…だが、限界のようだな」
思念体が解除してしまっている。最後の気力でシールドを維持しているようだが、それも時間の問題だろう。
ミロク「…ビナー“理解”解除」
その言葉と同時にビナーの厚い膜を突き破り、ミロクは飛び出した。そのままアゲハめがけて突っ込む。ビナーは蒸発するように消えていく。
ミロク「終わりだ!!少年!!」
アゲハの肉体と精神はボロボロだった。しかし、殺意に満ちた瞳でミロクをにらむ。その姿はまさに飢えた肉食獣…。
そして、ディスクがおぞましく蠢く。
さらにディスクから太い枝のようなものが飛び出す。いや、あれは枝というよりも魔獣の爪…警戒したミロクは空中で動きを止める。
ミロク(…何だ、何が起きている?あのシールド…さきほどから使っているものとは違うのか!?)
魔獣の爪はゆっくりとミロクのほうへ向き…すさまじい速さでミロクへと襲いかかる!!!
ミロク「っ!!?」
とっさにミロクはセフィロトで防御膜を形成する。しかし魔獣の爪は紙を破くようにあっさりとそれを突き破る。2本がミロクの左の太腿と右の腹部をえぐりとり、1本が胸部を深々と貫いた。
ミロク「がっ!!?…っ!!!」
雨 宮(…あれだけのエネルギーを吸収したメルゼズ“暴王”が爆ぜたんだ。防御なんてできるわけがない…)
ディスクとそこから出現した魔獣の爪が砕け落ちる。それと同時にアゲハが膝から崩れ落ちる。ミロクは空中で停止したまま動かない。
雨 宮「…天戯弥勒の体から…急速に力が失われていく…」
ミロクの体はイルミナでもなく、他者の生命エネルギーを吸い続け、形を成していた。
今…それが奪われ崩れていく…
ミロク「ク…クク…まさか…な…この俺が…今日、この日に命尽きることになろうとは…いや…これも運命…か」
そして、やっと重力を思い出したかのようにゆっくり…ゆっくりと生命の釜へと落ちていく。
ミロク「少年…俺が、ここで力尽きようと…この世界は…俺を中心に廻るのだ…もう…お前にコレを止めることは出来ない」
アゲハ「…!?」
生命の釜のセフィロトの上部に魔法陣が浮かぶ。そして、生命エネルギーがセフィロトから大地へと拡がっていく。大地が大きく揺れ始める。
アゲハ「何…だ…!!」
雨 宮「マズい…どんどん溢れていく…!!」
アゲハが雨宮に支えられて立ち上がる。
それらを物陰から隠れて見ていた人物がいた。
ミロク「新しい生命が誕生する」
物陰から隠れていた人物が姿を現す。その人物はアゲハたちを無視して釜と建物の境目まで歩き、落ちていくミロクを眺める。
アゲハ「お前は…!?」
ミスラ「よく働いてくれたね、天戯弥勒」
CALL.137IF 『地球と月』 END
原作ではミロクは太陽となっていますが、個人的にグラナが太陽かなぁと思ったのと、地球と月でも対比になるかなぁと思ったので、ミロクは地球になっています。
ななしのアステリズム、全5巻を読み終えて…
終わった。終わってしまった…
私はこの作品に本当に夢中だった。
感謝の意味を込めて、この作品のことについて語らせていただきたい(女子3人について語ります、男子2人のファンの人はごめんなさい)。
以下ネタバレありです。
現実ではあり得ない女子だけの一方通行の三角関係…
だというのに、彼女たちの心理はとてもリアルに描かれていた。同性の友達に恋をしてしまい打ち明けることができない苦しみ…それでも抑えることができない甘酸っぱい喜びに読んでいるこちらまでドキドキ、キュンキュンしてしまった。
また、誰かの想いが伝わってしまったとき、この3人の関係がどうなってしまうのか…という恐怖感によるドキドキもこの作品から目が離せなくなってしまった一因であろう(これは吊り橋効果に通じるものがあったと思う)。
最終的には司、撫子さんのそれぞれの想い人に気づいてしまった琴岡さんの暴走で、3人の関係は壊れかけてしまうが、昴から激励を受けた司の行動で3人の関係は修復される(打ち切りでなければ、女子3人+男子2人が織り成す絶妙なバランスで保たれた人間ドラマがもっと見れたのだろう…ここは本当に悔やまれる)。
3人の関係修復後に司が出した撫子さんへの想いに対する答えは悲しかった…悲しかったけど、納得はできた。
ななしのアステリズムはラブストーリーだ。ラブストーリーである限り、恋愛の敗者は必ず存在する…断言するが、この敗者が撫子さんでも琴岡さんでも私は同様に悲しんだ。
このラブストーリーにおける敗者は「想い人」と「親友」を自分以上に大切にしてしまう優しすぎる司…ヒーローであり、栄光ある敗者なのだ。
最終5巻の裏話にも書かれていたが、「恋が叶わない=幸せじゃない」はその通りだと感じたし、優しすぎる司の魅力に気付く人は必ずいる(というかすでに恭介くんが気づいているな)。
ななしのアステリズムは本当にすばらしい作品だった。
巧みな心理描写と丁寧に張られた伏線。
女子だけの一方通行の三角関係と主人公をラブストーリーの敗者に選んだというのも斬新である(主人公が敗者は賛否両論だと思うけど)。
最高の作品を描きあげてくれた小林キナ先生に感謝を贈るとともに今後の活躍に期待したい。
MTG、異界月のカードは狂ってる…
イニストラードを覆う影でも大天使アヴァシンというイカレカードに驚かされたが、今回はそれ以上に異常だと思ったので使われた人間として感想を書く。
・最後の望み、リリアナ
忠誠度+1でクリーチャーを弱体化、あわよくば除去できて、このとき忠誠度4という堅さ…また、何らかの手段で墓地へ行ったフィニッシャーの回収もできる。これが3ターン目に出てくるとか異常すぎるだろ…
・呪文捕らえ
3マナ、飛行、瞬速、2/3。コスト的にこの状態で妥当なはずなのに、なぜ呪文を打ち消す能力までついているのか…せめてタフネスを1下げてくれ。
・約束された終末、エムラクール
上記2つは見た時点で狂ってることが分かったが、これは分からなかった…使われて、過去のタイタンシリーズに匹敵するフィニッシャーだと気付かされた。7、8マナで出てきて、しかもプロテクション(インスタント)のせいで除去できない。次のターンには戦線をズタズタにされて、インスタント以外の除去を持っていたとしても自軍に使われる。洗脳解除後にインスタント以外の除去をトップドローしないと13/13に殴られてほぼゲームオーバー。どうしろというんだ…
ウィザーズ社はもうちょっと考えてカードを作れや!